育児・介護休業法 2025年4月1日改正のポイントと背景(2)
【介護休業編】介護問題、適切な対応を講じていますか?

さて、今回は育児・介護休業法の介護部分について、今月から施行される改正のポイントと その背景、企業への影響と講ずるべき
対策を見ていきましょう。
まずは、改正のポイントを、厚生労働省発表の資料を元にご紹介していきま
法改正のポイント
1、介護休暇を取得できる労働者の要件緩和

2、介護離職防止のための雇用環境整備
介護休業や介護両立支援制度等(※)の申出が円滑に行われるようにするため、事業主 は以下1〜4のいずれかの措置を講じなければなりません。
1 介護休業・介護両立支援制度に関する研修の実施
2 介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
3 自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供
4 自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知
※介護両立支援制度等とは、以下を示す。
i.介護休暇に関する制度、ii.所定外労働の制限に関する制度、iii.時間外労働の制限に関 する制度、iv.深夜業の制限に関する制度、
v.介護のための所定労働時間の短縮等の措置
3、介護離職防止のための個別の周知・意向確認等
(1)介護に直面した旨の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認
介護に直面した旨の申出をした労働者に対して、事業主は介護休業制度等に関する以下の 事項の周知と介護休業の取得・介護両立支援制度等の利用の意向の確認を個別に行わなけ ればなりません。※取得・利用を控えさせるような個別周知と意向確認は認められません。

(2)介護に直面する前の早い段階(40際等)での情報提供
労働者が介護に直面する前の早い段階で、介護休業や介護両立支援制度等の理解と関心を 深め、事業主は介護休業制度等に関する以下の事項について情報提供市なければなりませ ん。

4、介護のためのテレワーク導入(努力義務)
要介護状態の対象家族を介護する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずるこ とが、事業主に努力義務化されます。
以上の4つの改正が施行されましたが、皆さんの会社では、改正にあたる対応は十分にできていますでしょうか?
そしてまた、厚生労働省がこのような改正を行う背景をご存知でしょうか? 今回のブログでは、今回の改正の背景事情をお伝えしながら、改正の意味を紐解き、介護離職防止に実効性のあるアプローチについて考えていきましょう。
法改正の背景
まず、皆さんは「2025 年問題」をご存知でしょうか?
これは、約 800 万人いるとされる団塊の世代(※1)が後期高齢者(※2)となって、超高 齢化社会へ突入する問題です。これにより、後期高齢者は 2025 年には約 2,200 万人となり、 全人口の5人に1人は 75 歳以上の高齢者となります。また、認知症患者の数は
全人口の4 人に 1 人に上ります。今や、医療・介護・福祉サービス等や社会保障財政の整備が喫緊の課 題となっています。
1965 年には、高齢者 1 人を、生産年齢人口約 10.8 人で支えていました。
それが、2010 年には、高齢者1人に対して生産年齢人口 2.8 人で支える事態となっていま した。そして今年 2025 年は高齢者1人を、生産年齢人口わずか1.9 人で支えています。
また、介護保険が誕生した 2,000 年と比較し、要介護認定者や介護保険サービスの利用者は 25 年間で 3 倍以上となっています。
それだけ介護を必要とする高齢者が増加しており、介護するのは配偶者についで、同居の子、 同居の子の配偶者が多い状況です。
働きながら介護をしている人をビジネスケアラーと呼びますが、経済産業省が 2023 年に発表した「新しい健康社会の実現」という白書によると、 2020 年にはビジネスケアラーの人数は 262 万人ですが、2030 年には約 20%増の 318 万人 に上るとされています。
また、働きながら介護をしている年齢は 50 代が最も多くなってお り、介護離職は直近 1 年間で 10.6 万人もいるとされます。
こんなにも多くの人が家族の介護・看護を理由として会社を辞めているのです。
そして、その多くは 50 代の中堅社員や幹部です。 企業、そして日本経済にとっては非常に大きな損失となっています。
現在のままの状況が続けば、2030 年には経済損失は約 9 兆円に上るという経済産業省から の見込みも発表されており、少子高齢化と労働力人口の減少が進む現在、仕事と介護の両立支援の充実は必須の課題となっているのです。
ベテラン社員が介護離職することの痛手は中小企業なら尚のこと大きなものとなるでしょう。
法改正に伴い期待されること
このような背景を基に、今回の改正があり、入社後半年に満たない社員でも介護休暇が取れ るようになり、介護の申出をした労働者には、介護休業や両立支援制度の内容などを個別に 周知し、労働者の希望を確認することとなったのです。
この「個別の周知」は大きな意味を持ちます。それまで、制度の存在は知っていても、職場 で何となく言い出しづらく、結果として介護のために仕事を辞めていった人は大勢います。 介護休業の内容や取得方法を「個別」に説明し、両立支援制度について、どのような制度が 実際にあるのか詳細を伝えることにより、「介護休業をとっても良いのか」「取りたい」と希 望を出しやすい環境に変えることができるのです。
実際に、育児休業においても 2022 年度に、妊娠または出産したことの申出があった時は 育児休業に関する制度を個別に周知し、意向を確認するという同様の内容が義務化された 後、育児休業の取得率が格段に向上したという経緯もあります。
更に、親が 65 歳の節目を迎えるころ、つまり労働者本人が 40 歳に達した年度に介護と仕 事の両立について事前の知識を付与することにより、実際に介護が始まった時も慌てるこ となく仕事と介護の両立ができるように、企業側で先手を打って情報提供することにより、 介護をする労働者が安心して働き続けやすい状態を作り出し、介護離職を減らそうというのが今回の改定の内容なのです。
テレワークの制度については、義務ではなく、余力があれば行なって欲しいという「努力義 務」ですが、テレワークにより在宅勤務ができるようになれば、要介護者を側で見守りなが ら仕事をしたいというビジネスケアラーには、非常に効果的な制度となるでしょう。
また、育児・介護休業法改正の指針では、育児・介護全般を通じた留意事項として始業時刻 変更等の措置や在宅勤務等の措置を講じるに当たっては、夜間の勤務や⻑時間労働等によ り心身に不調が生じることの無いよう、勤務間インターバルに気を配るなど、事業主に配慮を求めています。
更に、家族の介護を行なっている労働者が、介護を行なっていること等に付随して職場で明 らかにしたくない事情がある者に対する配慮が必要であるため、労働者から情報の取り扱 いに関する意向が示された際には、その意向を踏まえて情報共有範囲を必要最小限に留めるなどの配慮をすべきとされています。
企業が講ずべき措置
さて、今回の改正について、企業の皆さんには、会社としての指針策定や既定の整備が求め られます。雇用環境整備や個別周知の実施方法など選択肢が与えられているものに関して は、各企業ごとに、事業の実態に最も沿った方法で行えば良いと考えられますが、一般的に は、書面での提示より、研修や面談といった、双方向にコミュニケーションが取れる方法で の周知が望ましいと思われます。 また、「介護休暇を取得できる労働者の要件緩和」と「介護のためのテレワーク導入」の改正については、場合により労使協定や就業規則の見直しが必要となります。
ここで経営者の皆さまは、自社の従業員の介護状況についてどれくらい把握しているでしょうか?
経済産業省の発表によると、法に基づいた介護休業の制度整備状況は、全体で 74.0%の企業で、従業員数が 500 名を超える企業では、99.6%の企業で整備済みとなっています。
一方で、大企業においても5〜6割は従業員の介護の状況把握を行なっていないとのこと。
また、今後、介護に関する状況について従業員の状況を把握する予定がない企業は7割に上ると言います。
つまり、法定の措置は満たしているが、現状の把握や介護休業取得の推進など自主的な取り 組みにまでは着手していない企業がほとんどなのです。これでは、「仕事と家庭を無理なく 両立できる働きやすい職場づくり」という目指すべき姿からは程遠い状況にあると言えるでしょう。
まずは経営者自身が「介護」について、そして、「介護と仕事の両立」について知ることが 第一歩となります。厚生労働省や経済産業省等の行政機関から発表されている資料、関連メデイアなどから、介護をする従業員(ビジネスケアラー)の日常や悩みごとを知ることから始めて頂きたいと思います。
そして、自社の経営規模や業種の特性等により、経営戦略、組織マネジメントといった大き な視点で見た時に、介護離職や従業員の介護による労働の質の低下により、自社のビジネス にどのようなリスクが生じうるのか、逆に両立支援を充実させることによりどのようなリターンが得られるのかを検討してみてもらいたいと思います。
リスクはチャンスに変えましょう
介護離職というリスクを逆手にとって、上手に組織マネジメントを行うことで、リスクはチ ャンスに変えられます。家庭と仕事の両立支援を実施することで、離職率を低下させ、万一 の離職に備え業務の属人化を廃していくことにより組織全体での競争力が向上し、「休暇の とりやすい職場」「リモートワークを柔軟に取り入れている職場」といった労務環境や福利 厚生の向上による採用力強化など、明るい明日を目指しましょう。
グロースサポート社会保険労務士事務所は、「より良い組織づくり」を徹底支援しています。 ご不明点があれば、お気軽にご相談下さい。